映画「北京ヴァイオリン」感想

チェン・カイコー監督の映画「北京ヴァイオリン」は、1990年代の中国を舞台に、ヴァイオリンに夢をかける少年チュンと、彼を支える父リウの姿を描いた作品である。

映画は、中国北部の田舎町で暮らすチュンとリウの父子から始まる。チュンは幼い頃に亡くなった母の形見であるヴァイオリンを弾き、その才能には周囲の大人たちが舌を巻くほどだった。リウはそんな息子を一流のヴァイオリニストに育てようと、必死に働き金を集めていた。

ある日、リウはチュンに北京の音楽学校で学ぶ機会を与えることにする。チュンは喜び勇んで北京に旅立つが、そこで彼は厳しい現実に直面する。音楽学校の競争は激しく、チュンは周囲の優秀な生徒たちに追いつけず、次第に自信を失っていく。

そんな中、チュンはリリという女性と出会う。リリはチュンの才能に惚れ込み、彼を励ましてくれるようになる。リリとの出会いによって、チュンは再びヴァイオリンに打ち込むようになる。

しかし、リウはチュンの将来を案じて、彼に北京での生活を辞めて田舎に帰るよう言い出す。チュンは父の思いを理解しつつも、自分の夢を捨てることができない。

結局、チュンは北京に残ることを決意する。リウはチュンの決意を尊重し、彼を見送る。

映画のラストシーン、チュンは北京駅でリウと別れる。リウはチュンにこう言う。

「お前は、自分の道を歩めばいい。俺は、お前をいつまでも応援する」

このシーンは、父と子の深い絆を象徴する、映画の最も感動的なシーンのひとつである。

この映画は、ヴァイオリンをめぐる親子の愛を描いた作品であると同時に、夢を追う人々の姿を描いた作品でもある。チュンやリリのように、夢を追う人々は、必ずしも順風満帆な道のりを歩むわけではない。しかし、彼らは決して諦めず、自分の夢を叶えるために努力を続ける。

この映画は、そんな人々の姿を温かく、そして力強く描いている。

以下に、この映画の具体的な感想を述べてみたい。

まず、この映画の最大の魅力は、チュンとリウの父子愛である。リウは、チュンが幼い頃に亡くなった妻の代わりに、チュンを一人で育ててきた。彼はチュンの才能をいち早く見抜き、彼をヴァイオリニストに育てるために、自らの夢を犠牲にしてまで努力を重ねてきた。

リウのチュンに対する愛情は、決して言葉で表されるものではない。彼は、チュンにいつも笑顔で接し、彼の夢を全力で応援する。そんなリウの姿は、観る者の心を温かくする。

また、この映画は、ヴァイオリンの美しさも存分に伝えてくれる。映画の中では、チュンやリリがヴァイオリンを弾くシーンが数多く登場する。チャイコフスキーの「悲愴」やメンデルスゾーンの「春の歌」など、クラシック音楽の名曲が、彼らの演奏によって新たな魅力を放つ。

特に、ラストシーンのチュンの演奏は、息を呑むほどの美しさである。彼のヴァイオリンの音色は、彼の夢への想いを、そして父への愛情を、観る者の心に響き渡らせる。

この映画は、中国映画の代表作のひとつとして、今もなお多くの人々に愛されている。その理由は、単にヴァイオリンをめぐる親子の愛を描いた感動的な作品であるだけでなく、夢を追う人々の姿を力強く描いた、普遍的なテーマを内包しているからだろう。